職場でパソコンに向かっていると、右目のあたりに突然七色の幾何学模様が現れた。模様が連なって輪のようになり、中心部が暗く欠けている。
「疲れてるのかな?」
目を閉じても七色の輪は消えず、目を開けると輪も、欠けた視野も大きくなり歩くことも出来ない。恐怖を感じながら数分間じっとしていると、輪は次第に薄くなって消えた。
すぐに眼科へ行こうと思ったが、実は心配なのは脳の方だ。父親が2度も脳梗塞を起こしており、体質が似ている私も危ないだろうと思っていたから。そんなわけで近くの脳神経外科に駆け込んだ。
人生初のMRI。ヘッドフォンに流れるジャズを打ち消すガンガン音と揺れに耐えること約15分。戻った診察室で、思ってもみなかった診断を聞かされた。
“せんきあんてん”( “閃輝暗点” と書くらしい)という、片頭痛が起こる前に出ることがある症状ですね。脳梗塞につながる血管の詰まりもなさそうですし、これについてはさほど心配ないと思います。ただ、それよりも気になることが…」
え、何?!
どっかヤバいの、私?
医師が言うには、私の脳は “脳のシミ” とも言われる “だいのうはうしつびょうへん” が年齢以上に多く、将来的に認知症になる確率が高いのだと。モニターに映し出された脳は確かに真っ白だ。医師の言葉は続く。
「それと…驚かないでくださいね。ここのところに腫瘍がありまして」
へ?
見える。
私にもはっきりわかるくらいのやつ。
「上手いこと頭蓋骨と脳の間にあって、多分良性だと思うので、開頭するようなことにはならないと……」
ショックすぎて何言ってんだかわからんわ。で、私はどうしたらいいのさ。
常日頃、認知症にだけはなりたくないと願っていた。身内に余計な負担をかけたくない。医師に詰め寄っても、これといった原因や対処法はなく、とりあえず血圧を下げる薬を飲むことになった。
大脳白質病変。
家に帰ってネットで調べると、医師が言ったのと同じようなことが書いてある。いったん傷ついた脳は元には戻らない。これ以上進行させないようにするしかなく、まずは血圧のコントロール。血糖値、コレステロール値、タバコにアルコール、ストレスなんかも要因として挙げられていた。酒やタバコには縁がないが、コレステロール値は毎回検診で引っかかっている。
待てよ。一番怪しいのはストレスじゃないか?
サイトを開いてから4か月ほど。かつてないほど脳みそをフル回転し、七転八倒しながら文章をひねり出すのが良くなかったのでは。いや、ストレスなんて昨日今日の話じゃないぞ。
考えが錯綜する。
「心配したってしょうがないやん。今を楽しんだ方がええんちゃう?」
まわりの言うことはもっともだ。私だってそう思う。揚げ物やケーキ、チョコまで制限したら、何の楽しみが残るというのだ。でもやっぱり、ボケた私を託される身内のことを思うと…
切り替えよう。
考えてもどうにもならん。ストレスが倍増するだけや。出来る範囲でやっていけばいいのだ。久々に半休を取り、ギトギトのトンカツ定食を食べながら自分に言い聞かす。
その晩、ネットで家庭用血圧計をポチった。





